本書は、中国四川省涼山彝族自治州に暮らす彝族の言語・文字について論じた研究書である。涼山彝族は1956年、中国政府によって「民主改革」が実行されるまで、長い間奴隷制社会の状態に置かれていたとされる。また。彝族には、一説には漢字に匹敵するともいわれる、長い歴史をもった独自の文字が存在する。この文字は伝統宗教の巫師である「ピモ」によって受け継がれ、祈祷や祭祀に使用されていた。それは、人類が文字を獲得した時の、人と文字のありようを現代にまで残しているかのようであるとも言われている。1949年、中華人民共和国の成立によって、涼山彝族の伝統的な社会と文字文化にも、激しい社会主義改造の波が押し寄せてきた。本書では、涼山彝族の伝統的な社会の一端を紹介し、特に1949年以降、涼山彝族が、言語文字改革の影響をどのように受け、民族の伝統文字を守り、そして発展させて来たのかを論じた。また、巻末には『涼山彝語会話六百句』(李民、馬明著四川民族出版社)を翻訳した。涼山彝語(彝語北部方言)の言語と文字を、その社会的、文化的背景とともに紹介した、我が国初の研究書であり、現代彝語の入門書でもある。
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