本書の初版は阪神淡路大震災の発生から2年後の1997年に刊行された。1993年に日本建築学会から免震構造設計指針(第2版)が刊行されており、本書の執筆陣も学会指針の作成に携わった方々にお願いした。学会指針の内容が先端的な学問と普遍性をめざしているのに対し、本書ではできるだけ免震のことをわかりやすく伝えるべく努力したつもりである。改訂にあたっては、単位系を変えたくらいで、基本的な内容は大幅には変わっていない。それだけ本書の内容が10年という時間を経ても通用するものであったということか、あるいは免震構造の本質自体が不変であったということであろう。免震という言葉は知っているが、取り組んだことがない方には是非読んでもらいたい。難しい技術ではないことを分かっていただけると思う。 現在のところ、我が国には免震住宅まで含めて4000棟近くの免震建物があると推定される。本書の刊行以降、免震建物は事務所建築、共同住宅、病院、そして戸建て住宅へと適用範囲と規模が拡大されてきた。2000年の建築基準法の改正施行により、免震建築物(平12建告第2009号)および免震材料(平12建告第2010号)に関係する告示が制定された。この法改正により免震技術の正常な一般化は甚だ憂慮されるべき時代となった。建物を支える主要構造体であるアイソレータ等を「材料」と呼ぶことに違和感を覚えないことが技術に関する法律の限界を露呈している。 免震構造は非常に明快な構造システムであり、建物躯体だけでなく内部空間に作用する地震の揺れ自体を小さくすることができる優れた構法である。今後も免震建築は確実に増えていくであろう。免震建物の大規模化に伴い使用される免震部材も大型化してきているが、その限界性能を知らなくても認定品だからと安心して使っていないだろうか。免震建物では、積層ゴムやダンパーなどのように従来の建物にはなかった部材を用いるなど、その設計と施工には慎重に取り組む必要がある。技術が普及すると停滞するのは免震だけに限らない。我々は常に免震技術の研究開発と改善を続けていく必要がある。免震建築の健全な普及と免震技術のさらなる発展に本書が少しでも貢献できれば幸いである。
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