菊地宏が建築を志すことになった90年代から、「白い建築」が注目を集めていた。建築が白ければ模型も白く、平面図では色を表現する余地がない。菊地には、建築をめぐるこの状況は、モードのうえにモードを重ね、より視野を狭めて進んでいるように思えた。なぜ、これほどまでに建築は自由を奪われてしまったのか、この呪縛から離れ、豊かな空間をつくることができるのだろうか??。いくつかの建築設計事務所で実務を重ね、2004年に独立した菊地宏の設計活動は、こうした問いと深部から向き合い、歴史や自然のなかに範を探して、人間の生活のすみずみを豊かにすべく照らしていくものとなった。空間の豊さは、自然のリズムと協調することから生まれてくる。環境、方角、季節、時間、光、色、菊地はそうした要素と人間をどのように結びつけられるかを丁寧に探り当てる。本書では、筆者が長年にわたって撮影した80枚ほどの写真が、言葉と同様に建築のあり方を示す。それらは筆者の建築の模索の途中で撮影されたものであり、いまでも筆者の価値観を支える建築と空間のヒントに満ちている。建築の最新モードから離れて、豊かな空間についてあらためてじっくりと考えるための一冊。
セブンネットショッピング