近代といわれる以前の人びとは、森に対していまでは想像のつかないほどの畏敬の念を抱いていた。近代になって、そのことをわたしたちはすっかり忘れてしまったが、近代以前に、わたしたちの祖先が森に対して畏敬の念をいだいた理由の一つが、森は豊饒で生きるうえでずいぶんと助けられたからであろうと思われる。 志鎌猛のこの写真集には、英文のタイトルがSilentRespiration of Forests と付けられているが、写真集の内容からしたら邦文よりこのほうが的確である。つまり、 silent respiration が森には満ちているということである。それはまた、森の神秘性の別の表現でもあり、森はいつも静かに息をしている。すなわち、森は生きているわけで、写真集からそのかすかな声が聞こえてくる。写真家には、その声がよく聞こえていたのである。
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