満を持して始めた茶陶の制作だったが、栄造さんに残された時間はあまりにも少なかった。死を覚悟した彼の、茶陶にかけた情熱には凄まじいものがあり、残された3年間を、かつて見せたことのない集中力で自己の茶陶の完成をめざした。若い時代から、音楽やいろんなジャンルの芸術に興味を示し、いつも優しさと遊び心に溢れて、ときどき道草をしながら作陶してきたこれまでの彼の人生からは想像もできない。それでいて栄造さんの毎日は、彼の病を知るよしもなかった私達にはいつも通り坦々としたものに見えた。私はそこに武士の生き様を見たのだった。彼の人生は短くはかないものであったが、栄造さんの命は彼の残した芸術の中に明確に生きている。私は人生のはかなさと、芸術の持つ力の確かさを知った。三輪栄造は立派に生きて、見事に自己の芸術を確立したのだ。それが本書を残すことに決めた所以である。
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