今日自然環境の保全・保護の必要性が声高に叫ばれているにもかかわらず、自然環境と密接に関わって暮らしてきた山村の人々の生活は疲弊し、全国的に画一な消費経済を基調とする都市生活の仕組みが隅々まで張り巡らされ、これに絡め取られることによって、従来の山村の生活は、まさに崩壊の瀬戸際にあると言える。自然環境の保全・保護の最大の担い手であるはずの山村が、なぜ崩壊させられようとしているのか。自然との共生を背伸びすることなく生活の中に溶け込ませてきた民俗の智恵が、なぜ否定されなければならないのか…だが、小国の町や村に住む人々の生活知の中には、自然を枯渇させることなく継続的に維持し持続的に利用してきた歴史的な民俗知があるはずである。それを生かして今日的に再生した環境保全論を構築できれば、自然に常に相対している地域住民が保全の主体者となる構図を作り出すことができるであろう。第1部 自然と人(小国盆地周辺の山地地形;小国盆地に見られる植生利用とその変遷―北小国の三集落を中心に)第2部 歴史的景観(小国山間部の近世村落―その景観と暮らし)第3部 野生動物資源と環境(伝統的クマ猟は持続的に継続することが可能か―山形県小国町の春季マタギ猟の場合)第4部 環境と人の交渉史(小国マタギの過去と現在)第5部 総論(共生の民俗知―持続的利用の技術知)小国の地を対象としながら、人と自然の関係の歴史、交渉の歴史を多様なまなざしから眺め、それを総合することにより、民俗知とも呼びうる大地に生きる人々の知の体系の復権とその今日的な意味を考える。
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