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某日、クロネコが部厚い原稿の束を運んできた。東京商船大学五回生 故・田中 航(本名 紀之)氏の遺稿ともいうべきものが、故人クラスメートの大杉 勇(元航海訓練所・所長)から送られて来たものだった。彼からは、故人には係累はなく、クラスメートの好誼で何らかの機会に預かったもので、故人のためにも何とか著書としてまとめられないかと伝言があった。ざっと一読のあと、長いあいだ書棚の隅に寝かせてあったのを、ふと見つけ出し、海文堂に出版の件につき相談してみた。ありがたいことに、故人は同社にはかなりの縁があり、「海技と受験 船長コース」などに連載ものを寄稿したり、時にはふらりと同社に立ち寄って同姓の田中編集長(当時)と歓談したりして、まんざら知らない仲でもなかったことから、快く出版を引き受けていただくことができた。さて故人には、『帆船時代』『蒸気船』『戦艦の世紀』(いずれも毎日新聞社刊)の三部作がある。それぞれのあとがきから拾ってみると、東京商船大学を卒業して約十年間、航海士生活を送った。その間、船の誕生から発展までに興味を持ち、機会あるごとに資料を蒐集した。船員をやめて絵描きに転向し、資料を整理して、自分なりの船の歴史を書きためてきた。潮の香を嗅いだことのある男が、往年の船について愛惜の情をこめて書きつづったものが『帆船時代』という。船の歴史の流れの上で、人力で漕ぐ船、自然の風を利用した帆船、そして動力を備えた船と発展した。その動力船に焦点をあてたのが『蒸気船』となった。船の歴史の第三作目として「軍艦」を書くよう勧められ、戦列艦時代から第一次大戦にいたるまでを解説したのが『戦艦の世紀』と述べられている。三部作に共通しているのは、平常、船舶や海洋に関係のない方々にも興味をもって読んでいただけるよう配慮されていることである。そしてここに遺作として『人と船そして海』ができ上がり、前三作品とは異なる面から、海と人間の物語として多くの皆様に読んでいただけることを、関係者の一人として願うものであります。(編者「あとがき」より抜粋)  セブンネットショッピング