第1部 俗文學をめぐって(嚴嵩父子とその周邊―王世貞、『金瓶梅』その他;明末惡僧小説初探 ほか)第2部 文人をめぐって(山人陳繼儒とその出版活動;〓士銓『臨川夢』の中の湯顯祖と江南文人 ほか)第3部 科學をめぐって(明清時代の科學と文學―八股文をめぐって;宋眞宗の「勸學文」について)第4部 書物をめぐって(明清兩代における鈔本;明清における書籍の流通 ほか)明清時代、とりわけ明末から清初に至る時期、南京、蘇州、杭州、揚州などの大都市を擁する江南地方では、經濟的な活況を背景に、文化の花が咲き誇った。傳統的詩文についてはいうまでもなく、書畫や庭園などの藝術、優雅な文人趣味の世界など、明末時期の江南には、多くの文學者、藝術家があらわれ、活躍している。そしてまた出版業の發展を背景に、傳統的な雅文學ばかりではなく、戯曲、小説、俗曲などの通俗文藝が隆盛をきわめたのも、この時代の特色である。かくのごとき綾錦のような世界が、明王朝の滅亡、續く清軍の南下によって、たちまち修羅の巷と化すことになる。命をかけて清軍に抵抗を試みるか、それとも髪をそり、辮髪を結って清に仕えるのか、はたまた明の遺民として世を送るのか、當時の知識人は嚴しい選擇の前に立たされることになる。こうした人間模様が見られるのも、この時代ならではのことである。本小著が、こうした明清の時代相を浮き彫りにする一助となれば幸いである。
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