ベルリンに集った留学生たちを撮影した一枚の記念写真。彼らのその後は、そのまま近代日本医学の歩みとも重なる。森鴎外と同時期に学んだ群像の波乱に富んだ軌跡を追う。第1部 ベルリンの才子(春風の中に在る心地す―加藤照麿;憚ることなき人―北里柴三郎;ジョン万次郎の息子―中浜東一郎;写真中の最年少―北川乙治郎;異郷に死す―武嶋務と尾澤主一;縁薄けれど―佐方濳造と島田武次)第2部 斯学の先駆けたち(公衆衛生の父―山根正次;法医学と禁酒運動―片山國嘉;日本産科学事始―浜田玄達;眼の神様―河本重次郎;小児を育てる事―瀬川昌耆;解剖一代―田口和美)第3部 敵あれば友あり(終生ウマが合わず―谷口謙;思えば小倉左遷の引き金か―江口襄;勇敢愛可し―隈川宗雄;重く煙たい存在―石黒忠悳)第4部 ゆかりの人びと(薬学と国際結婚―長井長義;生涯のライバル―小池正直;盟友ここにあり―青山胤通;一切秘密無ク交際シタル友―賀古鶴所)ここに一枚の集合写真があります。明治21年(1888)6月3日、ベルリンのフリードリッヒ写真館にて撮られたもの。陸軍省医務局長の石黒忠悳が欧州視察の途次、ドイツに立ち寄ったのを機にしての記念撮影でした。写っているのは森鴎外を含む19人、そのほとんどが日本人医学留学生です。彼らはその後、帰国してそれぞれの分野で大きな業績を挙げますが、全員が一堂に会することは二度とありませんでした。その意味でこの写真は近代日本医学史上の「奇跡の一瞬」をとらえたものと言えましょう。しかし、驚くべきことに、ここに写っているのがいかなる者たちだったのか、最近までほとんどわかっていなかったのです。本書は、この一枚の写真に写っているそれぞれの男たちとその周辺、鴎外との関係を追い、近代日本医学のあけぼのを描きます。
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