「よし、通信、各編隊に向けて発光信号を送れ、文面は"眼下ニ敵艦有リ、艦爆ノ降下セル先ニ敵艦ノ姿アリ"以上だ」。敵艦の居場所と、おおよその進路が判明すれば、あとは艦攻隊も小隊単位に分かれて、それぞれが個々に動き出す。魚雷で一撃必中を期するには、できる限り雲に隠れて、目標の辺りまで急接近しては、次の瞬間に高度を下げて雷撃態勢に入る。胴体下面に航空魚雷を抱いた艦攻の姿は、目標へ向かって突撃する陸上の槍騎兵に似ている。なにせ一度目標を目掛けて突進すれば、どれほど対空砲火を浴びようと、一切の回避行動が出来ないからだ。とにかく一直線に進み、敵艦に衝突する寸前に、海面高度間近で魚雷を投下すると、あとは目標艦の上空を、一気に飛び越える。杭州号(旧ドイツ装甲艦ドイッチュランド)の乗員にとって、不幸だったのは、愛知製の96艦爆と航空廠製の96艦攻が、意外に酷似していたことだった。何と、低空から飛来する96艦攻の編隊を見て、投弾を終えた艦爆の編隊だと勘違いをしてしまったのだ。第2次大戦前夜から始まるもうひとつの戦争。風雲急を告げる日華関係に、互いの思惑を秘めた2人の独裁者が介入した。ドイツ装甲艦3隻が日本海に出没。第3戦隊の高速戦艦「金剛」「霧島」が迎え撃つ。
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