山荘(空見上げ暗き夜道はとめどなく東京逃れよくぞ歩きぬ;娘ら四人飢ゑたる日々の戦の日いかに耐へしや吾の父母;あたたかき父の手添ふる病床にもみぢ燃え立ち吾はめざむる;山を下り共に生きなむ茶室から肩を寄せ合ひ明日にむかひて ほか)導かれるままに(神をめぐって;播州の親さま;存命のおやさま;聖母マリアさま ほか)次女・野沢朝子(ともこ)氏が綴った、在りし日の"父親として"の芹沢光治良。戦後の困難な状況下にありながら、その愛によりもたらされた、温かく慈しみ深い生活が丁寧に描かれる。生涯を文学に捧げた彼の実像と、慈愛に満ちた人生をたどりながら、いつもそこにあった「愛」を感じ、薄れゆく昭和を回想できる珠玉のエッセイ。今なお多くの人の心に寄り添い、魅了し続けている芹沢作品ですが、近年は若いアニメファンにも注目され、ファンの裾野が広がっています。本書は、親子水入らずで一家団欒に興じる姿や、将来に悩む朝子氏に送った書簡など、これまで語られることが少なかった素顔が垣間見られる、文学的に大変貴重な記録でもあります。第一章 山荘はじめに―病みてよりこころ弱りて山荘に父の香のこる机待ちてありI見上げ暗き夜道はとめどなく東京逃れよくぞ歩きぬ娘(こ)ら四人飢ゑたる日々の戦の日いかに耐へしや吾(あ)の父母あたたかき父の手添ふる病床にもみぢ燃え立ち吾はめざむる山を下り共に生きなむ茶室から肩を寄せ合ひ明日にむかひて自然の深き青葉に抱かれて心なごみて遠き日思ふほがらかにあかるく動く姉なりき幸せうすく世を去りにけり元旦に突然羽ばたき飛立ちぬ歌に送られエンゼルに守られてわが姉の命ながらへ生くるとも満ち足らぬまま耐へて生きなむ意思強き友のえらびた人生は世俗はなれて神一筋にあの日から頼り頼られ慎ましく初心忘れずわが家築きぬ休
Honya Club.com