釜山東亜大学(Dongah University) において化学を専攻したのち、オランダに渡りロッテルダム・コンサヴァリーにおいてジャズを専攻したという経歴を持つ韓国のシンガーによるアルバム。
『Sings with Rob Van Bavel-One Day』に続く、ロブ・ヴァン・バベルとのコラボレーション第2弾。こちらはグループ編成。しかし興味深いのはドラマーが不在であることでしょう。バヴェルとのデュオが成功を治めたことを考えれば、必然のメンバー、楽器構成とも言えるかもしれませんが、ビートを明確に刻まれることのないドラムレスの編成によって生まれるゆったりとしたスウィング感がここでも大きな魅力になっています。
また今回の作品で興味深いのは、ジャズの楽曲とクラシックの楽曲を融合させていること。カルロス・ジョビンの黒と白の肖像のメロディのバックにラヴェルの弦楽四重奏曲第1楽章のメロディをかけ合わせるオープニングや、ドビュッシーの“亜麻色の髪の乙女”の各部分を巧みにコラージュした“デイ・ドリーム”、同じくドビュッシーの“パゴダ”がヴィクター・ヤングの“マイ・フーリッシュ・ハート”のイントロとして用いられ、さらには両曲をクロスさせるマニアぶりに驚嘆させられます。また原曲のメロディをそのままヴォーカルにとりいれた“マイ・レヴリ”(ドビュッシーの“夢想”)、“パヴァーヌ”(ラヴェルの“亡き王女のためのパヴァーヌ”)、もうひとつの“パヴァーヌ”(フォーレの“パヴァーヌ”)も、原曲に潜在するジャズ的要素を見事にひきだしていて、クラシック・ファンもびっくりの世界を作り上げています。
また、ビル・エヴァンスの超名曲“ワルツ・フォー・デビー”とエリック・サティの“ジムノペディ第一番”を組み合わせるという発想も驚き。相変わらずの相性の良さを感じさせるバヴェルのピアノとリーのヴォーカル。ここでは、美しくも奇妙な響きも持つサティのジムノペデのメロディを下地に夢想的なムードのヴォーカルが重なるスローなイントロでスタート。しかし演奏はその世界にとどまることなく自在に変貌。ジムノペディからインスパイアされたメロディ・パーツを導入しながら、ブリッジ部分で少しずつテンポ・アップし、あのワルツ・フォー・デビーのメロディに、そして完全4 ビートのスウィンギーなソロに移っていく展開は、流して聴いて心地良く、じっくり聴いて練られたアレンジにうれしい驚きがあります。またここでのバヴェルのピアノも、ギターとベースをバックにしたスウィング・スタイルがよく、エヴァンスのピアノとは違った魅力を感じる味な演奏になっています。
録音はオランダ、アムステルダム。韓国からヨーロッパに渡ったアーティストがしっかり、その土地に根をはって活動している素晴らしい実りがここにあります。確実なテクニックとナチュラルな感性、柔軟で自由な発想によって生み出された注目の作品です。
Bu Young Lee(vo), Rob van Bavel(p), Frans van Geest(b), Vincent Koning(g), Rick Mol(tp)
Disc1
1 : Portrait in Black and White-String Quartet in F major (Maurice Ravel)
2 : My Reverie
3 : Waltz for Debby-Gymnopedie No1(Erik Satie)
4 : So in Love
5 : Ravel’s Tomb- Inspire by Le Tombeau de Couperin (Maurice Ravel)
6 : Day Dream- La fille Aux Cheveux de Lin (Claude Debussy)
7 : Pavane (Maurice Ravel/ Bu Young Lee)
8 : Pavane (Gabriel Faure/Bu Young Lee)
9 : My Foolish Heart- Pagodes (Claude Debussy)
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