人人は茂吉の、一見難解で、一読非情な作品に、いつとは知らず魅せられ、つひにはこれの擒となる―近代短歌の巨星・斎藤茂吉(一八八二ー一九五三)の一万四千百八十首から、前衛歌人・批評家が五百首を精選、解説・鑑賞を施した『茂吉秀歌』。本巻では第一歌集『赤光』からの百首を採った。アララギ派一門とは別角度から蛮勇をふるい、歌本来の魅力を縦横に論じた歴史的名著。ひた走るわが道暗ししんしんと堪へかねたるわが道くらし(悲報來)ほのぼのとおのれ光りてながれたる螢を殺すわが道くらし(同前)氷きるをとこの口のたばこの火赤かりければ見て走りたり(同前)赤彦と赤彦が妻吾に寝よと蚤とり粉を呉れにけらずや(同前)罌粟はたの向うに湖の光りたる信濃のくにに目ざめけるかも(同前)鳳仙花城あとに散り散りたまる夕かたまけて忍び逢ひたれ(屋上の石)天そそる山のまほらに夕よどむ光りのなかに抱きけるかも(同前)屋根にゐて微けき憂湧きにけり目したの街のなりはひの見ゆ(同前)〔ほか〕前衛歌人で稀代の批評家、そして剛腕アンソロジストでもある塚本邦雄が、斎藤茂吉の秀歌に対して「弟子、一門の徒」とは別角度から真摯に迫り、批評・鑑賞を施した歴史的名著。茂吉の歌を照射し、その秘密に肉薄しつつ、短歌を含めた日本詩歌のあるべき姿を追究する、茂吉ファン、塚本ファン、短歌ファンのみならず、日本文学に関心のあるすべての人へ。言語芸術の粋がここにある。
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