第1章 変わりゆく東南アジアの地方自治第2章 逆コースを歩むインドネシアの地方自治―中央政府による「ガバメント」強化への試み第3章 インドネシア分権化時代の村落改革―「村落自治」をめぐる理念と現実第4章 タイの地方自治―「ガバメント」強化の限界と「ガバナンス」導入第5章 タイ農村部基礎自治体の創設と環境の「カバメント」第6章 フィリピンの地方政府―地方分権化と開発第7章 フィリピン沿岸州自治体の環境「ガバナンス」第8章 多民族社会マレーシアの地方行政―一党優位体制下における安定した行政東南アジア諸国で分権化が 1990年代以降推進され、これが定着した背景のひとつに、各国の中所得国化とこれにともなう中進国的な構造転換の問題を挙げられよう。東南アジアの主要民主主義国は、1997年アジア通貨危機以後のアジア経済危機や 2008 年のリーマン・ショックを経験しながらも、世界経済のなかでは相対的に高い経済成長率を維持し、国民の所得水準はすでにOECD諸国の後を追う中所得国の位置にある。こうした経済的・社会的背景を前提に、先進国レベルとまではいかなくとも、中進国の発展に見合う住民福祉の実現に向けて、東南アジアの主要民主主義国の公共サービスセクターは拡大の途上にある。これにともない、これら各国の地方でも、住民が中央・地方政府による公共サービスに期待と圧力を高めている。その内容は、「開発主義の時代」からの経済成長を目的としたインフラ整備や教育・保健にとどまらず、新たに生活の質にかかわる環境問題や社会的弱者への権利保護や生活配慮、再分配にかかわる年金給付・介護サービスといった生活に身近で細かな行政ニーズが加わりつつある。公共サービスに対する住民の関心は、サービスがカバーする内容ばかりでなく質の問題にも向けられて
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