第二次世界大戦後、自由主義陣営と社会主義陣営の対立が続いた。二〇世紀の終わりに東欧で社会主義体制が崩壊し世界平和への歩みが進むかに見えた。しかし、二極対立の陰にあった民族主義や極端な宗教的原理主義に基づく政治運動が吹き出し、世界平和の実現がいかに困難かを実感させた。また、人類は快適な生活と環境保護というディレンマの中で、資源の無制限な利用、限度をこえた開発などに有効な手段をとることができないでいる。自然科学の分野では、人間の生命の領域にまで踏み込み、人間の尊厳に対する冒涜ともいえる行為を行おうとするものもいる。一三世紀に生きたフランチェスコは、キリスト教とイスラム教の二極対立の中で、他宗教との対話を試み、対立する陣営に赴いて平和の実現に尽力した。フランチェスコの時代からすでに八〇〇年が経過しているが、かれの自然との一体感、人間の尊厳と自然への敬意、対話の実現と平和への熱望は、時代を超えて、今もなお生き続け、現代人に雄弁に語りかけている。1 恵まれた環境の中から(吟遊詩人と騎士道;心の旅路;親しい者との決別)2 修道会設立と新しい生き方(道を求めて;世界史的な出会い;「小さき者」と清貧;生き方の柱;聖クララ会)3 修道会の発展(イスラムとの出会い;生活の規範;自然を慈しむ心;平和への願い)4 フランチェスコの人間性(クリスマスと瞑想;時空を越えて;無学な者の叡智)5 晩年のフランチェスコ(「太陽の賛歌」;ウンブリアの落日;終章)冷戦の終焉後,民族主義や極端な宗教的原理主義に基づく政治活動が噴き出し,世界平和の実現がいかに困難かを実感させられ,また,環境保護と快適な生活という大きなディレンマの中で有効な手を打てずにいる。一三世紀に生きたフランチェスコは,キリスト教とイスラム教の二
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